2021.08.01 ニュース
【月刊NIGOD通信】2021年8月
「あるNIGOD職員の日記より2010/09/25」(中編)
私は急いで着替えを済ませると、職場である研究室へ向かった。
職員用宿舎からNIGOD本館(仮称である、正式な名前は無いが最近では“NIGOD本部”などと呼ばれている)へは徒歩数分の距離しかないのだが、この日ばかりは自然と早歩きとなっていた。
私の所属するNIGOD生化学研究班第一研究室は本館一階の奥にある。
いつも通りエントランスから中央の大階段の脇を抜けると、そこは研究員やその他のNIGOD職員、自衛隊の職員やらで珍しくごった返していた。
おそらく上階の「中央情報室(注・部屋ではなく部署名である)」と政府とのやり取りがあったのだろう。
ここで聞かなくても研究室に行けば嫌でも聞かされることだ。
私は足早に研究室に向かい、首から下げたIDでセキュリティを解除し中に入ると、既に半数近くの研究員が駆けつけていたが、全員二級から三級の資格しかない研究員ばかりだった。
それは室長クラスの研究員が来るまでは一級研究員の資格を持つ自分がここの指揮を執らねばならないということを意味する。
「おはよう、状況は?」
私は自分のデスクの近くの研究員助手に話しかけると彼女はやや早口でまくし立てた
「先ほど淡路島近海において、異常な温度の上昇等を確認しました。中央情報室はつい先ほど「ゴジラ出現の兆候」として政府へ通達し、「ゴジラ迎撃作戦」の発動を要請しました」
「政府からの返答は?」
「まだですが、そう遅くはないと思います」
その直後だった。
私を含む全員の端末に緊急の連絡を告げる着信のアラームが鳴り、同時にめったに使われない館内放送のスピーカーからアナウンスが鳴り響いた。
「先ほど、淡路島近海に於ける異常な海面温度の上昇を確認、我々NIGODはこれをゴジラ出現の兆候とし政府に通達すると同時に「ゴジラ迎撃作戦」の発動を要請」
そこまでは既に聞いた、問題はその先だ。
「たった今、政府から要請を受理し、これを承認するとの通達があった。繰り返す、政府から「ゴジラ迎撃作戦」発動を承認する通達あり」
にわかに館内が沸き立った。
無理もない、今までその存在を証明するものなどほんの僅かな未知の細胞や足跡や伝承程度しかなかったものが、ついにその姿を現すのだ。
まさに待ち焦がれた瞬間がやってくるのだ。
私はできる限り平静を保ち室内の職員に告げた。
「各自、自分の持ち場につけ。手筈通りなら自衛隊が情報収集のためのドローンや偵察機をすぐに飛ばす筈だ。我々はモニター越しでしか対象の観察ができない。どんな些細な変化でも見過ごすな、気になったことは逐一メモし、必要なら報告・提案するように」
「はい!」
若い研究員たちの興奮した応えを背に、私もすぐ近くにある自分のデスクに着席し、モニターの電源を入れた。
これから始まる未曽有の観察であり実験への期待に、私は自分の背がにわかに汗ばみ、胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。
はやる気持ちを落ち着けようと、私は誰かが用意してくれたのか、缶コーヒーを手に取り、一口飲んだ。
先ほどの助手が私の方を見ている。何か報告でもあるのだろうか?
「それ、私のです……」
「すまん、あとで払う」
僅かな恥と引き換えに、ようやく私は少し冷静になることができた。(続く)
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